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報道と真実

200318

宇佐美 保

 昨年1114日、TBSテレビのnews23のキャスター筑紫哲也氏は、彼が編集委員を務める雑誌「週刊金曜日」の拉致被害者(曽我ひとみさん)が北朝鮮に残した近親への取材への多方面からの非難の声に対する反論を彼のコラム「多事争論」の中、“永遠のジレンマ”との題目で、“報道と人権というこの2つの問題はしばしば衝突を起こし、矛盾をはらんでおります。私個人はそういう時、そこまで取材しなくててもと臆する事の方が多いんですけれども、しかしそれは、その分だけ自分が職業人としては失格だと言い聞かせております。”と論じておられます。

 

 そして、このコラムの中で、“事実を知らせるという事を一番の仕事としている報道”とも筑紫氏は論じておられます。

しかし、“他人の人権を踏みにじっても報道の任務を全うしよう” と念じる筑紫氏はこの“事実を知らせる”という報道の一番の仕事を蔑ろにされていると存じます。

 

 例えば、昨夜(17日)のnews23では、「豊郷小問題」の真実を報道したでしょうか?

「真実の報道」には、少なくも5W1Hが盛り込まれていなくてはなりません。

when:いつ、where:何処で、who:誰が、what:何を、how:どのように」は、盛り込まれていますが、肝心の「Why:何故」が、欠けているのです。

Why?何故、悪役の大野町長が、住民の意向を無視して、歴史的建造物を壊し、新築を強行しているのですか?

利権の為ですか?

 

 しかし「豊郷小問題」のWhy?:何故?を、長野県知事の田中康夫氏は、実に的確に、朝日ニュースターで放映された番組中で語っておられました。

この問題の背景には、改築するより、新築した方が地方財政からの出費が少なくなると言う、地方への国からの補助金交付の不合理さが絡んでいるのである。

そして、この不合理さを正してゆくことこそが、これからの日本にとって必要なのだ、と力説されておりました。

 

 何故、マスコミはここまで踏み込んだ報道をしないのですか?

このWhy?何故?がなくて、「真実の報道」と言えるのですか?

アナウンサーが機械的に読み上げている定時のニュースなどでは、我慢も出来ましょうが、

そして、又、単にお飾りの草野満代氏(何故、この人がnews23に存在しているの意味(Why?)が私にはわかりません)が、読み上げているならいざ知らず。

高い年俸を取っている上に、“人権を侵害することに臆することは、職業人としては失格だ” と御自身に言い聞かせる筑紫氏は、“Why?何故?を報道することが出来なくては、職業人としては失格だ”と肝に念じて欲しいものです。

この夜のnews23では、消費税率アップに対して、筑紫氏は“アップする前に税金の無駄使いを洗いなおせ”と怒っていました。

だとしたら、この日放映した「豊郷小問題」を単なるニュース扱いでなくて、税金の無駄使いの好例として取り上げるべきだったと思います。

 しかも、田中知事に不快感を示す(と私には感じられます)朝日新聞は、今朝の第3社会面の半分の紙面を費やして「豊郷小問題」を取り上げていますが、この田中知事の指摘する(田中発言のテレビ放映後の、サンデープロジェクトで、北川三重県知事も指摘しました)この「補助金交付の不合理さ」に全く触れていません。

 

 「豊郷小問題」よりも更に判らないWhy?が存在します。

銀行は、不良債権処理を解決するには、BISで定められた国際業務規格8%を死守する為に自己資本強化を図らねばならない。

そのため当然、中小企業からの貸し剥しが発生する、今もしている。

とマスコミは報じます。

更に酷いマスコミは、日本の銀行は一生懸命に、日本の企業(中小企業)の為に尽力しているのだとさえ喚きます。

 可笑しくはありませんか?

日本の銀行が日本の企業(特に中小企業)の為に尽くしているのなら、何故(Why?)、8%枠を諦めて、4%枠の範囲で国内業務に専念しないのですか?

何故、国から(国民から)公的資金を投入されているのに、BISの国際業務資格が必要なのですか?

 どのマスコミも、“みずほ銀行もUFJ銀行も国内業務に専念すべし”との論調を示しません。

何故ですか?

又、それらの銀行が、8%枠に拘る理由(Why)をどのマスコミも伝えてくれません?

これでも、報道と言えるのですか?

 単に、銀行幹部が8%枠を守れないと自分の首が飛ぶから、8%を死守しているだけですか?(この件さえも、報道されません)

それとも、8%枠を守ると言う口実で、中小企業から金を巻き上げ、自分(OB)達の天下り先である大手の赤字会社にその金を回しているのですか?

 

 少なくとも、“何故、4%枠ではいけないのか”を、はっきり報道してください。

(追記)

常々、“銀行のゼネコンなどへの債権放棄は法律違反だ”と訴える木村剛氏が19日のテレビ朝日「ニュース・ステーション」に出演した際に、久米宏氏は、“銀行の債権放棄総額と、中小企業へからの貸し剥し総額は、ほぼ同じではありませんか!”と怒っていました。

4%枠で、国内業務に専念して、債権放棄もしなければ、中小企業からの貸し剥しは不必要ではありませんか!

何故、他のマスコミは、この銀行の債権放棄をも追及しないのですか!

 

(友人は“なあに、マスコミなんか皆、銀行に首根っこ抑えられているのだから、幾らお前が喚いたって無駄なことよ”と白けていました。本当でしょうか?)
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